東京地方裁判所 昭和26年(行モ)7号 決定
申請人 高津栄吉
被申請人 東京都知事
一、主 文
申請人の申立を却下する。
二、理 由
申請人代理人は「被申請人が昭和二十五年十二月十一日附を以て申請人所有の東京都大田区入新井六丁目十五番の六宅地六十八坪七合一勺の一部十七坪八合を目的として訴外松浦福太郎のためなした換地予定地の指定処分の執行は申請人と被申請人間の東京地方裁判所昭和二十六年(行)第三九号換地予定地指定の取消請求事件の判決確定に至るまで之を停止する」との裁判を求め、その理由として主張する要旨は次の通りである。
「東京都大田区入新井六丁目十五番地ノ六宅地六十八坪七合一勺は申請人の所有地同所十五番地ノ四宅地九十一坪八合四勺は松浦福太郎の所有地である。
被申請人は右各宅地を含む附近一帯の土地を目的として特別都市計画法に基く土地区劃整理事業を実施し昭和二十五年十二月十一日附を以て申請人所有の前記宅地につき換地予定地を指定すると共に同宅地の東端十七坪八合を申請人より減歩し之を松浦福太郎所有の前示土地の換地の一部として指定した。
然しながら右減歩せられた申請人の所有土地は大森駅からの本通りたる旧八幡通に面し往来の頻繁な商店街の中心地区に位置しその土地の価格の如きも一坪五万円を下らぬ程度である。之に反し松浦所有の前示宅地の場所は通称「みづほ」通と称せられる横丁に面し右通りは街路としては人通り尠く店舗も極く疎らに点在する状況で土地の価格も三千円を超えない程度である。従て右松浦の土地の一部の換地予定地として前記申請人所有地の一部が減歩指定せられたのは甚しく申請人の利害を害し右松浦の利益を図つたものに外ならない。申請人は前記所有宅地の外前記「みづほ」通に面し松浦所有宅地に隣接する場所にも土地を所有し(十五万の一、三)これも本件区劃整理の施行区域に包含せられているのであるから同土地の一部を申請人より減歩しこれを松浦のため換地予定地となすべきが至当である。されば被申請人の本件換地予定地指定は特別都市計画法の準用する耕地整理法第三十条に反する違法の処分である。
よつて申請人はさきに昭和二十五年十月十二日訴願を以て右仮換地処分の取消を求め、次いで昭和二十六年六月十一日前記本案の訴訟を提起したが目下申請人は区劃整理事業を実施しつゝあり、松浦福太郎は本件換地予定地に建築工事を進行せしめつゝあり現状を停止することなくしてその儘の推移に委すときは申請人において将来本件換地予定地に対する所有権の円満な行使を回復することができず償うことのできない損害を蒙る虞れがある。なお本件執行を一時停止してもそれが公共の福祉に重大な影響を及ぼす虞れはありえない。蓋し本件仮換地処分の関係する範囲は極めて局部的であり従てその執行停止も一部直接の関係者即ち申請人と松浦福太郎その他一、二の者に僅小の影響を及ぼすに過ぎず殊に松浦は従前の居宅を存し本件仮換地に移築する要のないもので現在右土地に建築中のものは新たな店舗を建設しているのである。」というのである。(証拠省略)
被申請人代理人は主文と同旨の裁判を求め、その理由として主張する要旨は次の通りである。
「換地予定地の指定及びその通知のような処分にはその執行なる観念を容れる余地がないから執行停止を求める申立は許されない。
仮に然らずとするも本件仮換地指定処分は適正であり申請人には損害なく又仮令若干の損害があつてもそれは金銭で償うことのできる程度である。
本件の執行を停止するときは関係者の住居及び営業の安定を阻害することになり引いては区劃整理事業そのものの円滑な進行を妨げる結果となり一特定人のため多数の者に害を及ぼし公共の福祉に適合しない。
申請人にとり本件仮換地指定の処分は不利ではない。即ち現地換地であり十五番の一三の角地は申請人に与えられていること、地区平均減歩率二割七分に対し申請人土地の減歩割合は一割八分であることより見ても明かである。又公平な減歩を行う上から云つて旧八幡通に面する土地の間口は一様に縮少されなければならず従て仮令松浦のための本件問題の仮換地指定が取消されても右土地は申請人以外の者の仮換地として指定さるべき事情にある。よつて申請人の申立は却下さるべきものである。」というのである。(疏明省略)
按ずるに本件問題の仮換地である東京都大田区入新井六丁目十五番の六宅地六十八坪七合一勺の内十七坪八合の土地と右換地の従前の土地たる同所十五番の四の土地とを比較すると右仮換地の土地が遙かに価値あるものなることは窺はれるけれども本件区劃整理の基準よりすると申請人所有地の旧八幡通りに面する部分は一様にその間口を減少される事情なしとも云えない。従て本件の処分が取消されても右十七坪余の土地が申請人の使用に任せされるに至るや否やは更に精密な検討を要する又右取消があると従前の松浦の土地の一部に仮換地を指定された第三者の土地の指定も取消され順次他の土地に波及し広範囲に亘り区劃整理の施行が妨げられる虞も考えられる。
そこで本件は執行の停止をすることなく本案において十分審理を尽し申請人の権利を決定することが妥当である。本件問題の仮換地に松浦の建築物が完成した後でも若し申請人が本案において勝利しその権利が確定すればこれに基き右建物の収去等を求めうると考えるから結局本件は現在において償うべからざる損害を避ける緊急の必要性を欠くものとして執行停止の申立を却下する。
(裁判官 谷口茂栄)